カタキ討ち 『果たし状 　越前　リョーマ　君 　今日の部活終了後、女子テニス部のコートで待ってます。 　ラケットを持って来てください。 　２−８　　』 「ねぇ…何なのコレ。」 夕日に染まった青学のテニスコート。 越前は、今朝下駄箱に入れられていた手紙を広げて前に突き出した。 「果たし状。見れば分かるでしょ？」 コートの反対側に立っているのは、 女子テニス部のレギュラーウェアを着た２年生の女の子。 どこかで名前を聞いたことがあるが、 たいして興味もなかったので覚えていない。 「俺とテニスしたいの？」 「そういうこと。勝負よ、越前　リョーマ！」 はラケットの先を越前に向けて言い放った。 「ふーん。でも俺、先輩のこと知らないんだけど。 　俺、何かしました？」 「アンタは知らなくても私はよーく知ってんの！ 　新入生のくせにランキング戦なんて出ちゃってさ。」 「…ああ、青学名物（←？）の新人イビリっスか。 　みんなヒマなんスね。」 「そんなんじゃない、カタキ討ちだよッ！　絶対、倒してやるッ！！」 問答無用と言わんばかりに、はサーブを打ちつけた。 だが… いち女子テニス部のエース如きが、 アメリカジュニア大会４年連続優勝に敵うはずもなく… 終わってみれば６−０で越前の圧勝だった。 「まだまだだね。」 「う…うそ…１ゲームも取れないなんて…」 は、へたへたとコートに座り込んだ。 「先輩、握手。」 「いらないッ…！」 「そういえば、さっき敵討ちとか言ってた気がするんスけど… 　何のことっスか？」 「なっ…何だっていいでしょ！？　ほっといてよ…！」 は、ぷいと顔を背けて言った。 「なーんだ、つまんないの。 　先輩、俺に果たし状くれるくらいだから少しは強いのかと思ったけど… 　ぜんぜんだね。」 「くっ…！」 「ちょっと足元狙ったら、すぐ動けなくなっちゃってさ。」 「……」 「…この間の海堂先輩の時とおんなじ。」 「……！」 「アンタなんかに何が分かるのよっ！？」 は突然大声で叫ぶと、顔を歪め、ぽろぽろと涙をこぼした。 「悔しい…こんなヤツに負けちゃうなんて…」 予想外の事態に、越前は呆然としている。 「薫ちゃん…どうしてこんなヤツに…」 「（“薫ちゃん”？　この人、海堂先輩の…？ 　そういや前に英二先輩が言ってたっけ…）」 “海堂にはすっごいかわいい幼なじみがいて、 　　ちゃん、っていうんだよ。 　はぁ〜あ、海堂がうらやましい〜…” 「…思い出した。アンタ海堂先輩の幼なじみの…」 「そうだよッ。だから薫ちゃんの代わりに 　私がアンタをやっつけようと思ったの！　文句ある！？」 はゴシゴシと涙を拭いながら、キッと越前を睨みつけた。 「薫ちゃんはね、去年の新人戦の後からずーっと特訓してスネイク覚えて、 　やっとの思いでレギュラーになれたんだよ！？ 　それなのにアンタは、入ってきてすぐにランキング戦だなんて… 　薫ちゃんの悔しい気持ち、アンタなんかに分かるもんか…ッ！！」 「もう、やめておけ。」 「！」 その時、大きな手がの肩をつかんだ。 その主は… 「薫ちゃん…！？」 「。越前を責めるのは、違うだろう。」 海堂は、をたしなめるように言った。 だが、は納得できないといった表情で、 目に涙をいっぱいに溜めて海堂を見上げている。 「だって…こんなの変だよ… 　薫ちゃんがこんなヤツに負けるなんて…おかしいよ…」 「負けたのは…俺が弱かったからだ…」 海堂は静かに言った。 「俺が策に溺れたのがいけなかった。 　だがまだランキング戦は終わっちゃいねぇ。 　次の乾先輩との試合には必ず勝ってみせる。 　もっと…強くなってな…」 は、海堂の言葉を黙って聞いていた。 「すまなかった、越前。コイツが迷惑かけて。」 「別にいいっスよ。暇つぶしにはなりましたし。」 「、お前も謝れ。」 は、むりやり海堂に頭を下げさせられた。 「リョーマ…君、ひどいこと言ってごめんなさい。」 「…ったく、勝手なことしやがって…」 海堂は、チッと舌打ちした。 海堂は、に先に部室に戻って帰り支度をするように促し、 自身もコートを立ち去ろうとした。 「次は絶対に負けねぇ…」 海堂の言葉に、越前はニヤッと笑って言った。 「先輩が泣くから、ですか？」 「フン、関係ねえよ…」 海堂は、頭を掻きながら去って行った。 …………… そうして、コートにひとり残された越前は、一言漏らすのだった。 「やれやれだね…」 Back