観月のリベンジ 観月はじめ。 勝つためには手段を選ばず、どんな犠牲も厭わない男 ―― そんな彼が、初めて味わった屈辱。 都大会準決勝、対青学戦。 体に負担がかかることを承知の上で不二 裕太に ツイストスピンショットを教えて利用した観月は、 その兄、不二 周助の怒りを買った。 そして２人の直接対決。 徹底的に調べ上げた不二の弱点を突き、瞬く間に５−０。 しかしそれは、観月を完膚なきまでに叩きのめすための不二の策略で… 不二にとって苦手と思い込んでいたコースは、実は全て得意なコースだった。 そしてその後、１ポイントも取れないまま７ゲームを連取され、敗北 ―― 彼のプライドは、ズタズタに引き裂かれた。 その時から観月は、復讐の鬼と化した ―― 「許しませんよ、不二 周助。 君には必ずや、あの時僕が受けた以上の屈辱を味わってもらいます…」 ＊ ＊ ＊ 「んふっ、ようやく見つけましたよ、不二 周助の弱点…」 ここは聖ルドルフ学院中男子テニス部のミーティングルーム。 観月はゆるく波打った自身の髪を指先でいじりながら、 机の上に一枚の写真を放り出した。 そこに写っているのは、青学女子テニス部の レギュラーウェア姿の少女。 「ぬあああ ―――― っ！！ 俺好みだあああ ―――― っ！！」 「お、落ち着いてくださいバ…赤澤部長っ」 「…はしたないですよ、バカ澤君。」 興奮する赤澤とそれを必死で押さえる金田を一瞥すると、 観月は再び写真に目を落とした。 「 、青春学園中等部２年、テニス部所属。 僕のデータによれば、不二 周助は彼女に想いを寄せている、と…」 「でもそんなデータ、アテになんないだーね。なんせ相手は不ニ…」 「んー…何か言いましたか柳沢君？」 「な…なんでもないだーね…」 「このデータに狂いはありませんよ。 なんせ今回は身内の証言を得ているのですから。 ねぇ裕太君？」 「ハ、ハイ…（観月さんがあんまりしつこく聞いてくるから テキトーに答えたんだけど…当分家には帰れないな、俺…）」 「さすが弟君。兄貴のことなら何でも知っ…いでででで！！」 野村にグリグリ攻撃を加える裕太。 テキトーに答えた結果が偶然にも本当だったなどとはつゆ知らず。 そんな彼を尻目に、観月は打倒・不二のシナリオを 頭の中でシュミレートしていた。 「（まずはこの を誘い出し、落とすことですね。 女性なんて、既成事実を作ってしまえばこっちのもの、なんですから。 そうして身も心も僕の虜となり果てた彼女を、 不二 周助のもとに送れば…）」 「…みじめですね、不二 周助。 嫉妬に狂う君の顔が目に浮かびますよ…んふふふふっ…」 「……………」 観月が非情な笑みを浮かべたのを、木更津は見逃さなかった。 ＊ ＊ ＊ それから数日後… たっ、たっ、たっ、たっ ―― 「おや、ランニングですか。精が出ますねぇ。」 トレーニング中のに、偶然を装って声をかける観月。 本当は事前にマラソンコースを調査し、待ち伏せていたのだ。 「青春学園の さん、ですね？」 「は、はい…あなたは確かルドルフの…」 「んふっ、観月です。」 「あ…そっか。ルドルフの寮ってこの近くなんですよね。それで…」 「まぁそんなところですね。 さん、貴女のお噂はかねがね、他の部員達から聞いていますよ。」 「あ。木更津さんとか、アヒルさん（柳沢）とか、裕太とか…？」 は、すでに顔見知りである３人の名前を並べた。 【 に関するデータファイル Ｎｏ．０１８：好戦的な性格。 売られた勝負は必ず買う。とりわけテニスに関しては燃える性分。】 「なんでも、青学女子テニス部のレギュラーだとか。 ぜひお手合わせ願いたいものです。」 「はいっ、喜んで！ 絶対負けませんよ？」 「では、うちのスクールのコートにご案内いたしましょう。 ここから歩いてすぐですから。」 「あ、でも私ラケット持ってない…」 「んー…それでしたらスクールに予備のラケットがありますから、 それをお使いになればよいでしょう。」 「でも…」 【 に関するデータファイル Ｎｏ．０４５：食べ物に目がない。 おいしいものをちらつかせれば、誰かれかまわずついて行ってしまう。 危機管理能力なし。】 「いつも部員達がお世話になっていることですし… なんなら後でうちの学食をごちそういたしますよ。 特にパスタ関係は絶品で…」 「行きます！！（即答）」 「（あんなに喜んで…扱いやすい性格で助かりますよ。 これから僕の復讐のための道具にされるとも知らずに… 哀れですね…）」 ＊ ＊ ＊ 観月に連れられて、はルドルフの部員達が通うスクールにやって来た。 観月達補強組は、通常の部活動とは別に、 週３回ここで練習をしているのだ。 それからは、コートから少し離れたところにある ロッカールームに通された。 「わぁ、きれいなロッカールームですね！ うちの部室（特に男子の）とは大違い…」 「僕達が普段使っているのはこの隣で、 ここはほとんど物置と化しているのですけどね。 あ、ラケットはあちらですよ。 どうぞお入りになって、お好きなものを選んでください…」 「はい、おじゃましまーす！」 そうしてがロッカールームに完全に踏み込んだのを確認すると… バタン…ガチャッ。 観月は入り口のドアを閉じ、鍵をかけた。 そして部屋を一周しながら、窓にカーテンをかけていく。 「え…？」 その行動の意味が分からず、ぽかんとしているに、 口の端をつり上げながら近付いてくる観月。 「んふっ、まんまとだまされましたね、 さん。 試合がしたいなど、ただの口実。 貴女と２人きりになれるチャンスをうかがっていたのですよ…」 「（この状況に持ち込めば、成功したも同然。 このまま、悩殺してしまうとしましょう…）」 「僕は…ずっと貴女を見てきたんです。貴女だけを… だから、こうして２人きりになりたかった…」 「え…み、観月さん…？」 「遠くから眺めるだけでなく、こうして触れてみたかった…」 「そんな…」 観月は、キス寸前というところまで顔を近付けると、 の唇を指でなぞった。 その行為に、は頬を赤くする。 「（この調子なら、もうすぐ落ちますね… 嘘とも知らずに、愚かなものですよ。 残念ながら僕は、貴女のような女性には興味などないんです。 まぁ、用済みになったらバカ澤君にでも差し上げるとしましょうか…）」 「観月…さん…」 「かわいらしい顔ですね…僕を誘っているのですか？」 「そ…そんなこと…っ」 「僕は…貴女が欲しい。貴女の全てを僕に預けてほしい。 いっそこのまま…」 「や…！」 ゴゴゴゴゴゴ… その時、突然ロッカールーム全体がガタガタと揺れ始めた。 「地震…ですか！？」 そして、しばらくすると… 信じられないことに、部屋に置かれた備品やテニス用品が 一斉にスーッと宙に浮き、２人を取り囲むように飛び交い始めた。 ゴオオオオッ――！！ 「いやぁぁぁッ！！」 「こ…これは一体…！？」 その場にしゃがみ込んで震えると、呆然と立ちつくす観月。 「まさか…ポルターガイスト！？ …信じません、信じませんよ僕はこんな非科学的な…ぐはぁッ！！」 飛んできたラケットの柄が腹部に入り、 観月はそのままぐったりと倒れてしまう。 そしてそれと同時に、宙を舞っていたモノ全てが動きを止め、 床に落下した… 「み、観月さんッ！？ もうヤダ、誰か助けてぇー！！」 が急いで鍵を開けて外に飛び出すと、 そこにはちょうどウォーミングアップ中の木更津がいた。 「あ、木更津さんっ！！」 思わずその腕にすがりついてしまう。 「さん、こんなに青い顔して…まさか観月が何か…？」 「あ、あのッ、オバケが出てラケットが飛んできて、 それで観月さんが〜…」 「？？？」 の指差した先には、開きっぱなしのドアの向こうに、 うつぶせに倒れている観月の姿があった。 「シナリオ、また壊されたんだ…くすくす…」 「なんのことですか？」 「や、なんでもないよ。 それより今日はもう遅いから、帰ったほうがいいね。」 「でも観月さんが…」 「ああ、観月なら後で運び出しておくから気にしないで。 さ、そこまで送っていってあげるよ。」 「はい…」 こうして、なにがなんだか分からないまま、 事無きを得ただったが… ＊ ＊ ＊ 後日、３年６組の教室にて… 「不〜二、なんの本読んでんのー？」 「あ、英二。これかい？ 『念能力と超常現象』。」 「む〜…なんか難しそう。 ほんと不二って、こういうワケわかんないの好きだよね〜。」 「ふふっ、最近ちょっとこっちのほうに興味があってね。 人間の思念が、科学では説明できないことを引き起こすこともあるんだって。 もしかしたら、僕にもできるんじゃないかなーなんて思って、さ…」 そんなわけないじゃん…と呆れる菊丸を見て、 そうだよねっ、と不二は笑うのだった… Back |