ふたりで過ごす日曜日 「ちゃん、発見ー！」 どたどたどた…ぎゅっ。 毎回毎回どこからともなく現れては、に抱きついてくる菊丸。 そして… 「もう、エージ先輩、苦しいですー。」 などと言いつつも、笑顔で抱きつき返す。 いつもこんなふうにじゃれ合う関係の２人。 でも本当のところは、菊丸がに片思い。 “休みの日でもデートとかして、ずうっと一緒にいたいな…” 常々そんなことを考えている菊丸だった。 ＊ ＊ ＊ ある日、学校で… 「ちゃ ―――― ん！！」 相も変わらず、の姿を見つけては突進してくる菊丸。 だけど今日は、ちょっとばかりわけが違う様子。 「ね、ね、ちゃん、今度の日曜ってヒマ？」 「はい、空いてますけど…？」 「遊園地行きたくない？」 「いいですね〜。でもどうしたんですか急に…？」 わけが分からず、目をぱちくりさせる。 すると菊丸は、にかっと笑って、 「じゃ〜〜ん！！」 と、遊園地の優待券を取り出した。 「あーっ！ それは！？」 が目を輝かせる。 「期限が今度の日曜までなんだ。姉ちゃんのだったんだけど、 都合が悪くなったっていうから俺がもらっちった。 ２枚あるから、よかったら一緒に行かないかな〜なんて…」 「はいっ！！ 行きたかったんですよここ〜。 エージ先輩、大好き！」 そう言うと、はまた菊丸に抱きついた。 “LOVE”ではない“大好き”に苦笑しながらも、 菊丸は密かにガッツポーズを作っていた…。 ＊ ＊ ＊ そして、日曜日… 青春台駅前での待ち合わせ。 遅刻常習犯の菊丸だったが、この日は気合いを入れて５分前集合。 外ハネの髪のセットも、ばっちりきまっている。 「エージ先輩、おはよーございまーす！」 ５分後、時間ぴったりにやって来たは、 いつものように菊丸に抱きついた。 だが菊丸はいつもと違って、目をまん丸くしてを見ている。 実は菊丸、初めて見るの私服姿に見とれていたのだ。 パーカーにショートパンツというカジュアルな服装だったが、 普段は制服なため、とても新鮮に映る。 まして、それが好きな女の子ならなおさらのこと。 「…エージ先輩？」 「うんにゃ！？ …ああ、おはよ、ちゃんっ。」 はっと我に返る菊丸。 「さ、行こっか。今日はいーっぱい遊ぼうね！」 「はいっ！」 ＊ ＊ ＊ こうして、遊園地にやって来た２人。 絶叫マシーン好きのに、「何でも好きなの乗っていいよん！」などと 言ったのがそもそもの間違いで… ジェットコースター×５回 バンジージャンプ ×３回 フリーフォール×７回 さすがの菊丸も、ヘトヘトになってしまった。 「今度はコーヒーカップで最速回転いってみましょーか？ 人間の限界に挑戦です！」 「ちゃ〜ん…そろそろおなかすいたんじゃない？ ちょっと休も？」 まだまだ元気がありあまっているに、たまらずストップをかける。 「じゃ、俺アイス買ってきたげるから、 ちゃんはここで待っててね。」 「はいっ。」 をベンチに座らせると、菊丸は売店へと向かった。 足元がフラフラしようが頭がクラクラしようが、 かわいいちゃんのためならば！ そして数分後。 「ほいほいっとね…って誰だアレ！？」 菊丸がアイスクリームを両手に持って戻ると、 は高校生らしき男２人に絡まれていた。 「君かわいいねー、どこから来たの？」 「俺らと遊ばない？」 は、きょとんとした顔で２人を交互に見上げている。 「ダメーッ！！ ちゃんは俺と一緒に来たんだよッ！？」 菊丸が止めに入るが、男達は身を引くどころか、 「うるせーんだよ。」 と、菊丸を突き飛ばした。 「あーっ、アイスが…」 「ひっこんでろ、ガキが。」 「バーカ。」 しりもちをついた菊丸を、さらに足蹴にする２人。 「いたたッ…！」 だがその時… 「エージ先輩になんてことすんのよー！」 男のうちの一人に、の強烈な飛び蹴りが炸裂！ 「いってェな…ちくしょう、なんだよこの女…」 「覚えてやがれ！」 男達は、捨てゼリフを残して退散していった。 「エージ先輩、大丈夫ですか…？」 「う゛〜…ちゃんに助けられちった…俺ってカッコ悪い…」 しゅんとなる菊丸だったが… 「そんなことないですよぉ。元気出してください、ね？ 次は先輩の好きなのに乗っていいですから。」 「ホント！？」 の一言で、すっかり元気を取り戻す。これだから気分屋は…。 「ほんなら次はアレ行こっ！」 と菊丸が指差したのは、お化け屋敷。 「う…っ！」 は、急に青ざめる。 実を言うと、心霊関係や暗い所が大の苦手なのだ。 「ヤなの？」 「……（こくこくとうなづく）」 「でもちゃん、俺の好きなのでいいって言ったよ？ それとも嘘ついたの？」 菊丸はぷくっとむくれながら、 の左右のほっぺたをむぎゅっと引っぱった。 「いらいれふー、いひまふはらはらひれふらはいー… （訳：痛いですー、行きますから離してくださいー…）」 手をばたばたさせながら、が訴える。 「よしっ、決まりねん。それじゃあレッツラゴー☆ …あのスリルがたまんないんだよねー♪」 機嫌を直した菊丸は、ブルーになっているの手を引きながら、 意気揚々とお化け屋敷に向かうのだった…。 ＊ ＊ ＊ 出てくるお化けは偽物と分かっていても、やっぱり怖いものは怖い。 「エージ先輩…置いてかないでくださいね…」 はぎゅうっと目を閉じたまま、菊丸の腕にしがみついていた。 「（いつもの元気なちゃんもいいけど、 怖がってるちゃんもかわいいにゃ。）」 菊丸は思わず笑みをこぼしてしまう。すると… ヒュ〜〜ドロドロドロ〜〜〜… ガショ―――― ン！！ ものすごい金属音とともに、お化け（のハリボテ）が出現！ 「いやあぁあぁぁぁ〜〜〜〜〜！！！」 「まっ…待ってちゃ…！」 「寄るな触るな近付くなあああ〜〜〜………」 お化けというよりもむしろその音に驚いたは、 パニックを起こして一人で突っ走っていってしまった。 そして数分後… 「どうしよう…暗くて何も見えないよ…エージ先輩、どこ〜？」 ようやく我に返ったは、暗闇の中を一人でさまよっていた。 パニック状態だったため、どこを通ってここまで来たのかも覚えていない。 「怖いよう…エージ先輩、助けてぇ…」 半べそをかきながら手探りで道を探していると… 「！！？」 突然後ろから口をふさがれ、 そのまま通路の裏に引きずり込まれた。 必死で抵抗するものの力では敵わず、 床に仰向けに押さえつけられてしまう。 「さっきはよくもケリ入れてくれたな。かなり痛かったぜ？」 「ちゃーんとお返ししなくちゃな…」 「！？」 非常口の明かりに照らし出されたのは、 先程声をかけてきた２人組の男だった。 一人がの上に馬乗りになり、もう一人が頭上から両手を押さえる。 「んーッ！ んーッ！」 助けを呼ぼうにも、口をふさがれているので声にならない。 はイヤイヤをするように、首を左右に振った。 「暴れたって無駄だぜ。慰謝料、きっちり払ってもらうからな♪」 「んうっ…！」 恐怖で涙があふれる。 男の手が服の中に伸びてきた、その時。 ―― ドンッ！ の上に乗っている男の体が、何者かによってはね飛ばされた。 「ちゃんに触るな！！」 そこに立っていたのは、はあはあと息を切らせている菊丸。 「ちゃんを泣かせるヤツは、 ぜぇーったい許さないんだからなッ！？」 「またテメェか…邪魔しやがって！」 「弱いくせにイキがってんじゃねーぞガキが！」 殴りかかってくる男達。 「エージ先輩っ！」 悲鳴にも似たの声。 だが… 「なんじゃらホイホイ♪」 菊丸はアクロバティックな身のこなしで、ひょいひょいっと攻撃をかわす。 暗いところでも動体視力は抜群だ。 「へへっ、今度は負けないもんね！」 そして体勢を立て直すと、すばやく２人に足払いをかけた。 ドサドサッ ―― ！ 転倒した男達は、打ち所が悪かったらしく、目を回してしまっている。 「ありゃ、ちょっとやりすぎちゃったかな。 …ま、いっか。残念無念また来週〜☆」 菊丸、勝利のＶサイン。 結局、騒ぎを聞きつけてやって来た係員によって、男２人は御用となった。 「もう大丈夫だよ。痛いトコ無い？」 「う…っ、うわあああん…」 菊丸の胸に抱き込まれたは、たまりにたまった恐怖を 吐き出すかのように、大声で泣き出してしまった。 「エージ先輩〜…怖かったです、もう、殺されるかと思ったです〜…」 「泣かないで、もう怖くないから…ね？」 「ふえぇぇぇん…」 「ちゃん…」 菊丸は、なかなか泣き止まないを、ぎゅうっと抱きしめた。 いつもじゃれ合う時のそれではない、大切なモノを守る強さで… ＊ ＊ ＊ 帰りの電車には、あまり人が乗っていなかった。 「ちゃん…ごめん。 俺が誘ったせいで、あんな怖い思いさせちゃって。 ホント俺って、何やってもダメだよね…」 お化け屋敷を出てからずっとしょんぼりしていた菊丸が、 ようやく口を開く。 「そんなこと言わないでください！」 は、大きな声で否定した。 「エージ先輩、私のこと探しに来て、助けてくれたじゃないですか！ あの時の先輩、すごくかっこよかったです！！」 「ホント…？」 「はいっ、それに今日はすっごく楽しかったです！ バンジージャンプ初体験でしたし！」 「ホント？ ホントに！？ じゃあ、また誘ってもいいの！？」 「はいっ！！」 にっこり笑って答える。 菊丸の表情が、とたんに明るくなる。 「ありがと、ちゃん！ それじゃあまた一緒にお出かけしようね！ 絶対だよッ！？」 …さすがは気分屋。立ち直りの早さは天下一品。 「ね、今度はどこ行こっか〜？」 「んーっとね、水族館なんてどうですかー？ それでイルカのショー見るの。」 「うんにゃ、それからそれから？」 「お弁当持ってハイキング、ってのもいいですねっ」 「そだね〜。そしたらお弁当、交換こしようね！」 「私、エージ先輩の作ったオムレツが食べたいな。 とろ〜ってしてておいしいんだもん！」 「ほいほい、了解了解〜♪」 …………… そんな調子でキャッキャと騒いでいた２人だったが、 疲れが出たのか、いつの間にか眠ってしまっていた。 電車に揺られながら、どちらからともなくもたれかかって眠る姿は、 ホンモノの恋人同士のよう。 窓の外に瞬き始めた星たちが、２人をずっと見守っていた。 ＊ ＊ ＊ 「…ん、…さんっ！」 「んにゃ…？」 「お客さん、終点だよ！」 「「…っえええ〜〜〜〜っ！！？」」 どうやら、２人そろって寝過ごしたようです… Back |