ハイテンション・ラブ 〜復活編〜 タタタタタ…！ 私達の夏は、まだ終わっていなかった ――！ タタタタタ…ガラッ！ 「監督っ、本当ですか開催地の推薦枠で私達が…！」 「出遅れたな、戸波。とっくにミーティングは済んでいる。 正レギュラーはコートに向かったところだ。」 「そ…それじゃあ私も…！」 「引き続き、マネージャーとしての働きに期待する。 …行ってよし！」 「はいっ！！」 ＊ ＊ ＊ 私、戸波 たつき。 氷帝学園中等部の３年生、男子テニス部のマネージャーやってます！ 実は私達、関東大会の初戦で青学に敗れて一度は全国大会を断念、 私達３年生はそこで引退ということになったんだけど… 全国大会がここ東京で開催されることが決まって、 開催地からの推薦枠として一校、 私達氷帝が出られることになったんです ―― ！ もともと私は女子テニス部で選手やってて、 マネージャーに転向したのは去年の都大会くらいから。 そのきっかけになったのが…言うの恥ずかしいかも… …でも言っちゃう！ …男テニに、好きな人がいるからなのっっ！！ 去年の６月に開かれた氷帝学園の 幼・中・高・大・交流会【ファンブック20.5／48ページ参照】に 中等部２年の代表で出たときのことなんだけど、 そのとき隣に座ってた１年生の男の子がすっごくかわいくて… 緊張してつっかえつっかえになりながらも一生懸命発言してたり、 他の人の意見を夢中でメモしてたり、子供みたいな仕草するのがおかしくて つい笑っちゃって、そこで初めて話をした。 不器用だけどすごく純粋で優しくて、 自分よりもまず友達や先輩のことを考えちゃうところ。 普段は穏やかだけど、テニスのことになると ちょっとだけ熱くなっちゃうところ。 後ろから名前を呼ぶと驚いたように振り返って、 それから照れくさそうに笑うところ。 その全部が好き。 鳳 長太郎君 ―― 少しでも近くで応援したくて、力になってあげたくて、 マネージャーになった。 長太郎君の世話を焼けるのが嬉しくてしょうがなかった。 でも関東大会で敗退してマネージャーを引退して接点がなくなって、 それからはホントにハリがないっていうか、 ポッカリ穴が開いちゃったような毎日だった。 「「氷帝 氷帝！！ 氷帝 氷帝！！」」 関東大会以来の、なつかしいコールが聞こえる。 コートへ向かって走り出す。 「「氷帝 氷帝！！ 氷帝 氷帝！！」」 ―― パチーン 「俺様と共に全国へついて来な！！」 「「わああああーっ！！」」 「「跡部 跡部！！」」 ……… 夢みたい。だけど夢じゃない。 ありがとう全国大会。 ありがとう東京都。 また、長太郎君と一緒にいられる ―― ！ 「長太郎くー…」 「チョウタぁー！」 「わ、さんっ…」 …はい？ ちょ…ちょっと待って、目の前で起こってる状況が まったく飲み込めないんですけどー… …整理してみましょう。 全国大会の開催地枠で氷帝が推薦された ↓ 跡部が全国大会出場宣言 ↓ 盛り上がるギャラリー、跡部に駆け寄るレギュラー達 ↓ ドサクサに紛れて長太郎君に抱きついちゃえ！ …うん。これでいいのよね？ …で。 ドサクサに紛れて長太郎君に抱きついてるあの女の子は 私じゃなくていったい誰なの―――！！？ 「チョウタおめでとう、よかったね！」 「は…はいっ…！ また宍戸さん達と一緒にテニスできるなんて… …もう俺…嬉しくて…もう…なんて言ったらいいか…ッ！」 「やだチョウタ、泣かないで？ チョウタとか、みんながすごく頑張ったからだよ…？」 「はいっ…さんっ…！」 えー…っと。 名前は……さんていうのかな？ この制服は…確か青学のだよね？ ダメだ、まったく理解できん…！ 「うれＣー！ ちゃんがお祝いに来てくれたー！」 「さすが青学や、情報が早いんやなぁ。」 「男テニのみんなも喜んでましたよ。 大会まであと一週間だから男テニは練習なんですけど… 私、チョウタにおめでとう言いたくてとんできちゃいました！」 「やるねー」 「えへへっ、だってチョウタ、すごく嬉しいんじゃないかなって… “宍戸さんが引退するなんてヤダ”って、泣いちゃってたくらいですし…」 「！！ …さんっ…！？」 「長太郎…お前そこまで…」 「宍戸さん…」 【※友情です！】 …あのー、なんかこの子、すごく溶け込んじゃってるんですけどー… 私、完全にカヤの外なんですけどー… 「こんなに早く下剋上の機会が巡ってくるとは思わなかったぜ。 青学…余裕こいていられるのも今のうちだ、 次は必ずあのチビ助を倒し、奴らに借りを返してやるぜ！」 「ちょっとなんなのよアンタ、人がせっかく喜んであげてるのに…！」 「まあまあ、そうピリピリしなさんなってご両人。なぁ樺地？」 「ウス。ケンカは駄目…です。」 「それよりもちゃんよ、大会では当然俺達の試合も見に来てくれるんだろ？ 全国でも俺様の美技に酔いな。」 ……………。 アタマ真っ白の私は、とりあえず近くにいた忍足の袖を引っぱった。 「ちょっとちょっと忍足…コレは何？」 「何って…全国参戦が決まって喜んどるの図、ちゃうんか？」 「ちゃうわ！ あの子よ…長太郎君にくっついてるあの子、誰なの？」 「あー…のことか。 ま、さしずめ“鳳のお姫さん”っちゅうトコかいな、なぁ岳人？」 「先輩の俺らを差し置いて彼女つくりやがって、あんま気分がよくねー。」 「かっ…かかかか彼女！？」 「そらちゃうやろ岳人。 せやな…今んとこはまだお互いそういう意識はあらへんようやけど… なんでも関東初戦のとき知り合うたとかで、 それからええ感じになってきとるのは確かやな。 お姫さんのこと話すとき、鳳めっちゃ嬉しそうなんよ。 こりゃくっついてまうのも時間の問題やないんか？」 「ヤバイんじゃねーの、どーするどーするたつきー？ 早いとこ長太郎に告ってみそー？」 ボ ―――――――― ン…… そ…そんなぁ… 私が、マネージャー引退でブルーになってたり。 でもせっかくフリーになった夏だから友達とバーゲン巡りしてたり。 夏休みでうちに泊まりに来てるイトコの宿題手伝ってあげてたり。 …そんなことやってる間にこんなことに なっちゃってたなんて―――！！！ あーもうバカバカバカ。私のバカ。 そういや関東初戦のときも、泣いてた長太郎君を なぐさめてあげようと思ったらどっかにいなくなってたし。 （ていうか、そのときあの子と出会っちゃったわけだし） いつもいつも、ツメが甘いのよー… …でもでもっ。 長太郎君はまだまだコドモで、恋愛なんか興味なさそうだし！ 実際いろんな子に告られてるけど、 「軽い気持ちでおつきあいするなんて俺にはできません」って 断ってるの知ってるし！ それなら気心知れてる私がいちばん可能性あるし！ こーなったら。 男テニマネージャー復帰を機に、長太郎君ゲット作戦本格始動よッ！！ １年間ずーっとそばにいた私が、いきなり出てきた他校の子なんかに 負けてたまるかってんだ！！ ＊ ＊ ＊ その日から、長太郎君を取り戻す戦いが始まった。 図書館で… 「さん、ここの問２なんですけど…教えてもらっていいですか…？」 「えーとそこはね…このａに５を代入してそれからＸを…」 「あ…そうか。ありがとうございますさ…」 「それでも間違いじゃないけどね、この公式を使えば一発で…ね？」 「あ、ホントだ…すみませんたつき先輩…（っていうかどうしてここに…？）」 ―― ふふっ、先輩の貫禄ってやつー？ ストリートテニス場で… 「痛っ…！」 「チョウタ大丈夫！？ 大変、膝が…タオル濡らしてくるから待っ…」 「いーのよさん、私がやる！ 部員のケガの手当てはマネージャーの仕事なんだから！ ね、ねね！？」 「は、はあ…（っていうかどうしてここに…？）」 ―― だって私達、同じ学校だもーん。 他校の人にジャマなんてさせないんだもーん。 ＊ ＊ ＊ そんなこんなで奮闘中のある日。 「んもーっ！ なんだって私がこんなことしなくちゃいけないのよーッ！？」 「「…！！」」 私の絶叫に、ビクッとするウサギ３匹。 「あっと、ゴメンゴメン。脅かすつもりはなかったのよー…」 テニスコートから少し離れたウサギ小屋で、私はひとりお掃除中…。 というのも、夏休みでうちに来てる幼稚舎のイトコが、 「たつきお姉ちゃん、今日も部活で学校行くでしょ？ あたし今日ウサギ当番なんだけど、友達と区営プールに 行くことになったから、部活のついでにお掃除よろしくねー！」 …なんて言い残してトンズラしちゃったからなのです…。 う〜…せっかく今日は長太郎君のために 冷やしレモネードつくってきたのに〜… コートで必死にボールを追いかけてる長太郎君を遠目に見ながら、 小屋に新しいワラを敷きつめていると… 「…今から休憩に入る！ 練習再開は１０分後だ！」 「「はいっ！」」 あ、休憩時間になっちゃったよ…まだお掃除終わってないのに…。 しょうがない、先にレモネードだけでも長太郎君に差し入れしてこようっと。 私はバッグから水筒をとり出して、コートのほうへと走っていく。 「長太郎くーん！」 「あれ、たつき先輩！ 今日は姿を見ないなって思ってたんですけど、どこに行ってたんですか？」 「ん、ちょっとウサギ小屋の掃除を頼まれちゃって。 それより長太郎君、これ…」 「…た、たつき先輩…あれ…！」 青ざめた顔でウサギ小屋を指差してる長太郎君。 その震える指の先には… 「…え゛！？」 開きっぱなしになった小屋の扉と、そこからとび出していく白い物体… これって…これって… 「いや〜〜〜〜〜っ！！」 急いで小屋に戻った私と長太郎君。 「か、確認しまーす… お父さんウサギのトトに、お母さんウサギのララ、それから…」 「「…………………………」」 引きつった笑いを浮かべながら顔を見合わせる私達。 「やっぱり赤ちゃんウサギのミミがいない〜〜〜！！ どうしよう私どうしよう長太郎君〜〜〜〜〜っ！！」 「お…落ち着いてくださいたつき先輩っ！ まだそんなに遠くには行ってないはずですから、急いで探しましょう！」 「そ、そうだね…！ 探しに行かなきゃ、だよね…！」 取り乱す私の肩をがっしりつかんで、懸命になだめようとしている長太郎君。 私は気をとり直して長太郎君と一緒に走り出した。 ＊ ＊ ＊ 「ミミ、ミミー！」 「ミミちゃーん、どこー！？」 学園の敷地沿いの大通りを探していると… 「あれ、チョウタに氷帝マネージャーの…戸波さん！？」 ばったり出くわしたのは、長太郎君争奪戦のライバル・青学の ！ 「どうしたの２人とも死にそうな顔しちゃって…」 「あのっさん、実は俺達…」 んもう長太郎君、いちいち説明しなくていいのに… 私がドジしちゃったなんて、恥ずかしいじゃない〜…！ 「…それで今、急いで探してるところなんです。」 「それ大変！ 私も一緒に探すよ！」 …え？ 「ほ、ほんとですかさん…助かります！」 ちょ…ちょっと待ってよー… 私がドジで逃がしちゃったウサギを、 よりによってさんに探してもらうなんて… しかも長太郎君、すごく嬉しそうだし… 「さんも手伝ってくれるって。 よかったですね、たつき先輩っ！（にっこり）」 「うん、そだね…みんなで探せば早く見つかるねー…（棒読み）」 こうして私達は、仕方なくさんを加えてミミちゃん探しを再開した。 …………… それからどのくらい探したんだろう。 植え込みの中。停まっている車の下。 商店街の人達にも聞いてまわった。 でも…いくら探しても見つからなくて… 「…っ、うっ…えっ…」 「たつき先輩…？」 「どうしよう長太郎君… ミミちゃん、どこにもいない…えっ…えっ…」 焦りと自分を責める気持ちとで、 私はその場にしゃがみこんで泣き出してしまった。 「このまま見つからなかったら…どうしよう… いくら押しつけられたっていっても…逃がしたのは私の責任だし…」 「たつき先輩…」 心配そうに私を見つめる長太郎君。 「これだけ探したのにいないんだもん…もう…見つかんないよぉ… こんなに車が多いんだもん…たぶん…もう…ッ、 私の…せい…幼稚舎の子達、きっと怒るよ… 私…許してもらえないかも… どうしよう…私…ふぇぇぇ…」 私…どうしたらいい？ 助けて、長太郎君… 「――― メソメソしてんなよ！」 「！？」 長太郎君からの優しい言葉を待っていた私は、 突然降ってきた女の子の声に、驚いて顔を上げる。 今の声は、さん…！？ 「そうやって立ち止まってる間にも、 ミミちゃんは危ない目に遭ってるかもしれない。 見つからなかったらとか悪いことばっかり考えんのやめようよ、 やれるだけのことしてみる前からもうダメって決めつけて諦めて、 そういうのいちばんキライなの！ グズグズしてたら時間のムダだよっ！？」 ものすごい剣幕のさんに、呆然としてしまう。 「そ…そうですよたつき先輩。 ミミはまだ赤ちゃんなんですし、遠くまでは行けないでしょうし… すぐに見つかりますよ。 だからもう泣いちゃ駄目です、ね？」 「うん…分かった…」 長太郎君に支えられて、ようやく立ち上がる。 「 ―― ！！」 ちょうどそのとき、私の目にとびこんできたのは… 「ミミちゃんっ！！？」 車道の真ん中に立ち往生する、白い赤ちゃんウサギ。 だけど、すぐ近くまでトラックが迫ってきていて ―― もうダメ…！！ 目を閉じるその一瞬、何かが車道にとび出していくのが分かった ―― キキィィィ ―――― ッ…！！ ……… トラックのブレーキ音。 そして… 「だ、大丈夫か君！？」 「平気だ、ぶつかってないぞ！」 「あの距離でよけるなんて、たいした運動神経だ…」 「よかったなぁお嬢ちゃん…っと、猫…じゃなくてウサギ！？」 さんが、ミミちゃんを守るように道路に横たわっていた。 彼女に駆け寄っていく通行人…そして、長太郎君…。 「さんっ…！」 「ん…チョウタ…？ チョウタぁ…！ ぅ…ふぇぇ…っ…」 「！？…さん…恐かったですか？ それともどこか痛いですか？」 「うっ…えぐっ…違うの… ミミちゃん無事だって分かったら安心しちゃって… そしたら涙出てきちゃって…ぐすっ…」 「さん…」 長太郎君に抱きかかえられたまま、 ミミちゃんをぎゅっと胸に抱いて泣きじゃくるさん。 私はその前に立つ。 よく見ると、腕や膝にはあちこちにスリ傷ができている。 「よかったね、ミミちゃん…ケガしなくって、ホントよかったぁ…」 「…よくないよ。あなたが…ケガしてるじゃない…」 「あ、ホントだ…」 「まったく、命知らずなのね。うちの部室で薬塗ってあげるから… …長太郎君、肩…」 「はい？」 「肩…貸してあげて、さんに…！」 「は、はいっ…！」 ＊ ＊ ＊ 「ッ…！ 痛ぁ…！」 「痛くてもガマン。無茶するからいけないのよ？ 頭は打ってない？」 「はい…」 「そう…ならひとまず安心ね。」 部室に連れてきたさんに、傷の手当てをしてあげる。 あんな大きなトラックの前にとび出してこれだけのケガで済んだなんて、 信じられない。 「…あの…ごめんなさい…」 さんが、ぽつりと言う。 「戸波さん、ごめんなさい… さっき私、すごくきついこと言ってしまいました。 私、動物が大好きで、すごく心配になって、 それで早く見つけてあげなきゃって思ってムキになっちゃって… でも戸波さんだって不安だったのに、それに先輩なのに私あんなこと… 本当にごめんなさいっ…！」 肩をすぼめて申し訳なさそうに頭を下げるさん。 私はその顔をのぞきこんで、軽く笑ってみせた。 「…いいのよ。私だってあのときは冷静じゃなくなってた。 それに…私のせいだとか怒られるだとか、私ってば自分のことばっかり。 さんのほうがミミちゃんのことをいちばんに考えて、本当に心配してた。 優しくて…勇気があるのね、さんは。」 「戸波さん…」 すると、側で救急セットの片付けをしていた長太郎君が、 さんの横にぴったりとくっついて座った。 「……………」 「んー？ なぁに？ チョウタ…」 「さん…あったかい…」 「やだ、どしたの急に？」 「さんが無事で本当によかった… さんにもしものことがあったら…俺…」 「チョウタぁ…」 …今回は、完全に私の負けね。 ＊ ＊ ＊ さん。 思ったことをストレートに言動に移しちゃう、少しだけ気の強い女の子。 あの一件でちょっと見直したっていうか、 意外といい子？って思ったわけなんだけど…。 … で も ！ ソレとコレとは話が別！ なかなかの強敵出現だけど、そう簡単には諦めないよッ！？ 長太郎君のことだって、それから全国大会だって、 ぜーったいに負けないんだから！！ ―― 私達の夏は、まだまだこれから！！ to be continued...? 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