Lucky or Unlucky? 「…でね、バスが満員だったから私も身動きがとれないでいたの。」 「うんうん、それで？」 「そしたらその人の手がスカートの中に入ってきて…」 「うわー最悪…」 学校帰り、はクラスメイトの綾菜と商店街を歩いていた。 ２人が話しているのは、綾菜が今朝被害に遭ったという痴漢のこと。 「もうヤダ、男の人なんてキライだよ…」 「綾菜ちゃん…」 綾菜は、怯えたように目を伏せてしまう。 もともと控え目で、少し臆病なところもある綾菜。 は、そんな彼女を必死になだめようとしていた。 「で、でも綾菜ちゃん、前に桃のこと好きって言ってなかったっけ？ それにほら、うちら林やマサやんとかとだって仲良くしてるし、 男の子みんながみんな悪いってわけじゃあ…」 「うん…分かってる。 でも…やっぱり知らない男の人のことは、怖いって思っちゃうの…」 「そっか…」 にとって、おとなしい性格の綾菜を気遣うのはいつものこと。 今回の一件で、彼女の人見知りにさらに拍車が かかってしまうのではないかという不安が脳裏をよぎった、 その矢先のことだった。 「君達、青学の生徒だよねー？」 追い抜きざまにいきなり声をかけてきた男が一人。 「いやー、やっぱり青学の女の子は激かわいいなぁ。」 敏感に反応したのはもちろん綾菜のほう。 ＜ど、ど、どうしようちゃん〜…＞ ＜無視無視！ こーいうのは相手にしちゃダメ…＞ かなりうろたえた様子でに耳打ちするが、 当のは平然を装って歩き続ける。 「えーシカト？ 俺、けっこう傷つくよー？」 何を言われても知らんぷりの。 「ねー、聞こえてるんでしょ？」 「や…！？」 男は、そんなの肩に手をかけて 半ば強引に自分のほうを向かせた。 それによって初めて直視することになったその姿は… 独特のくせのあるオレンジ色の髪。 この近辺では珍しい白い学ラン。 かなり特徴的な外見のこの男、 前にどこかで見たことがあるような… “ちょっと…アイツどこの学校かしら…” “ずっとイヤらしい眼で見てるわ” “あっ笑ってるぅ、イヤ〜〜〜っ” 「…思い出した！ アンタあの時の変態オレンジ頭！！」 は、男をビシッと指差して言い放った。 「ちゃん、この人のこと知ってるの…？」 「知ってるも何も！ コイツ前にうちのテニス部のぞきに来てて…」 の言葉に、男は嬉しそうに目を見開いた。 「あれーっ、もしかしてあの時コートにいた子！？ 俺、君のこと見てたんだよ！？ こんな所でまた会えるなんてラッキーだなぁ、 もしかしたらちゃんは俺の運命のヒトなのかもねっ！」 「な、何言ってんのよ！？ それにどうして私の名前知って…」 「今そっちの子が呼んでたじゃん。 あ、俺は山吹中の千石、よろしくね！」 「………」 千石と名乗った男のまくしたてるような口ぶりに、タジタジになる。 そしてその腕には、綾菜がしっかりとしがみついている。 「（マズイなぁ…綾菜ちゃん、すごく怖がってる…）」 体を小刻みに震わせ、今にも泣き出しそうな顔の綾菜。 “痴漢に遭ったせいで男の人が怖い”という話を聞いたばかりのは、 なんとかして自分が彼女を守ってあげなくちゃ…と考えていた。 「（普通に断っても駄目そうだし… こうなったら油断させてやっつけるしかないか…）」 は「大丈夫だからね」と耳打ちしながらそっと綾菜の手を離すと、 大きな目をウルウルさせて千石を見上げた。 「あ、あのっ千石さんっ…、実は私も初めて見た時からずっと、 千石さんのこと素敵だな〜って思ってたんです。 もしよかったら、私とおつきあいしていただけませんか？ 私、どこにでもついて行きますっ…！」 「ちゃんっ…」 ガラリと変わったの態度を怪しむこともなく、頬をゆるませる千石。 だがはその陰でニヤリと笑うと… 「引っかかったな変態千石！ ストップ犯罪・痴漢撲滅キ――― ック！！」 大きく跳び上がって蹴りを入れようとする。が… ―― ぱしっ。 その足首は、あっさり千石につかまれてしまった。 「そんな…完璧な作戦だと思ったのに…！」 「俺の動体視力、甘く見ないでくれる？」 そう言うと千石は、そのまま視線を下ろしてにま〜っと笑った。 「ふーん…白ね。 白を選んだアナタ、今日の恋愛運は絶好調！ 偶然の出会いに期待しましょう☆」 「や、やだあ！」 「スカートでオテンバしちゃうほうが悪いんじゃない？ それよりちゃん、俺とつきあってくれるってのは本…」 バシ――― ン！！ 怒りのビンタが、千石の頬を直撃！ 「最っ低っっ！！ …行こっ、綾菜ちゃん！」 叩かれた頬を押さえる千石を尻目に、 は綾菜の手を引いてスタスタと去っていった。 ＊ ＊ ＊ 「本っ当、今日はツイてないや。 変態ヤローにつきまとわれてパンツ見られて… まったくやんなっちゃう…」 綾菜と別れ、一人で商店街を歩くはかなりご機嫌ナナメの様子。 ―― トンッ 「ちょっと、気を付けてよね！」 軽く肩がぶつかった相手にさえ、くってかかってしまう。 だが、ツイていない時というのはとことんツイていないもの。 少しばかり相手が悪かったようで… 「あれあれー、おっかないお嬢ちゃんだなぁ、 なに怒ってんのかなー？」 がぶつかったのは、いわゆるロリコンの中年男。 彼にとって好みのド真ん中だったは、 逆に絡まれる羽目になってしまう。 「お嬢ちゃんかわいいねー。 お小遣いあげるから、おじさんと遊ばない？」 「いや…離してくださいっ…！」 「そんなにいやがんないでよ。ね、おじさんと楽しいコトしよ？」 「やだぁ…」 腕をがっしりとつかまれて、万事休すといった状態の。 するとそこに現れたのは… 「オッサン、いいトシしてこんな真っ昼間から何やってんだよ。」 「いたたた…！」 「せ、千石…さんっ…！？」 そう、そこに現れたのは千石。 中年男の腕を軽くひねり上げ、同時にを自分の後ろに引き入れる。 「なな、なんだね君は！？」 「オッサンには悪いんだけどさ、この子は俺のカノジョ！ 人のモンに手ェ出さないでくれる？」 「ぐ…」 千石の登場に怖じ気付いたロリコンオヤジは、 気まずそうにそそくさと退散していった。 ＊ ＊ ＊ 「あの…ありがと。」 つきまとわれてもパンツを見られても、 自分を助けてくれたことに変わりはない。 渋々ながらも、は礼を言う。 「うんうん、素直でよろしい！」 千石は、の頭をポンポンとなでながら言った。 「さっきまでとはすーごい変わりっぷり。 俺にビンタくらわせた子とは思えない謙虚さだねー。」 「だ、だって…助けてくれて… 彼女だなんて嘘までついてくれて…」 「あれ、嘘じゃないんだけど。」 「はぁ！？」 「だってこれからそうなるかも、だからね！」 「〜〜〜〜〜！」 ニッコリ笑ってウインクする千石に、 再びの怒りのボルテージが上がる。 「調子に乗らないでよっ、このッ…！」 先程と同じく頬をひっぱたこうと手を振り上げるが、 「…おっと！」 千石は寸前のところでその手首をとらえた。 「二度も同じ手をくうかっての！ …じゃあ分かったよ、つきあわなくていいからデートしようよ！ それならオッケーでしょ？」 「ヤダ！（即答） なんでアンタなんかと…」 「へー、そういうコト言うの？ 俺が来なきゃー今頃あのオジサンにあーんなコトやこーんなコト、 されちゃってたかもしれないのにねー… 危ないところを助けてもらったら、お礼するのは当然だよねー…」 「う…っ」 「そういえばさっきのビンタ、かーなーり痛かったんだけど。 中体連に訴えちゃおっかな〜？」 「や…お願いやめて、それだけは…！」 「どうしよっかな〜♪」 「ッ…」 肩をわなわなと震わせると、 その顔を少し意地悪そうにのぞき込む千石。 やがては、観念したかのごとく声をしぼり出す。 「…わ…っ、私と…っ、デート、して、ください…ッ…」 「あれー、でもちゃんは、俺なんかとは デートしたくないんじゃなかったっけ…？」 「そ、そんなこと…ありま、せん…、 どこにでも…ついて、行きます…ッ！（ものすごい屈辱）」 すると千石は、さも嬉しそうに白い歯を見せた。 「そうかそうかー、そんなにちゃんは俺とデートしたいのかぁ。 そこまで言われちゃったらしょーがない、 それじゃあ週末にでも２人で出かけるとしますか。」 「く…やっぱり今日は最高にツイてない…ッ！」 心底悔しそうに顔を歪めるをよそに、 千石はしてやったりという表情を浮かべていた。 to be continued...? Back |