“HAPPY” BIRTHDAY！ はじめまして、私は 。 青春学園中等部１年生、男子テニス部のマネージャーやってます。 そして… いきなりだけど、今日は私の誕生日なんです！ 一年に一度の、特別な日。 何か嬉しいこと起こるかも…なんてね。 ＊ ＊ ＊ 朝起きたら、テーブルには私の大好きなお料理が並んでいた。 学校では、クラスの友達がプレゼントをくれたり、 お菓子を作ってきたりしてくれた。 でも… 「痛ってー、ヒザすりむけたー！ ちゃん、救急箱救急箱ぉ〜！！」 「はーいっ、エージ先輩！」 「、そこのタオル取ってくんねーかー？」 「はいはい、桃ちゃん先輩！」 誕生日だといっても、いつもと変わらずテニス部の練習はあるわけで。 マネージャーの仕事も、いつもと変わらずハードなわけで。 大会が近いから、しょうがないんだけどね…。 そんなことを考えてると… 「今日の練習はここまでだ！ 各自クールダウンの後、急いで片付けに入れ！」 手塚部長の号令がかかった。 今日はずいぶんと終わるの早いなぁ。 時計を見ると、いつもの終了時間より１時間も早い。 「手塚部長どうしちゃったんですか？ まだ時間が…」 「いいから片付けにかかれ。まだ仕事がしたいのか。」 「いえ、け、結構で…」 私が言い終わるか終わらないかのうちに、 手塚部長はスタスタと歩いて行ってしまった。 ……ヘンなの。 とは言っても、練習が早く終わるに越したことはない。 片付けと着替えを済ませて、荷物を取りに部室に戻ると…… 「「ちゃん、お誕生日おめでと―― っ！！」」 ―― パン、パンッ！！ 「！？」 クラッカーの音。 「……？」 驚いてとっさに閉じた目を開けると、 そこには部員のみんなが勢ぞろいしていた。 「え…これって…？」 「ホラちゃん、ボーっとしてないで、早く早くぅ〜！」 エージ先輩が私の手を引いて、みんなの輪の中に連れて行く。 「今日はちゃんのお誕生日じゃん？ だから手塚に頼んで、練習早めに切り上げてもらったんだ。 このお誕生会は、手塚からのプレゼントだよ！」 「手塚部長…」 端のほうにいた手塚部長を見ると、相変わらずの難しい顔で。 「今日は特別だ。明日からはまた通常どおりのメニューをこなしてもらう。」 …なんて言ってたけど、いつもよりちょっとだけ顔の力が抜けてた。 ありがとうございます、手塚部長。 「俺らからもプレゼントがあるんだよん。俺からはコレ！ 開けてみて！」 そう言ってエージ先輩がくれた巨大な包みを開けてみると、 そこに入っていたのは… 「わあ！ クマのぬいぐるみ！」 「そ。ちなみに名前は大次郎。俺んちにある大五郎とおそろなんだ！」 こんな大きなぬいぐるみ、持って帰れるかっつーの！ …とツッコみたかったんだけど、 無邪気に笑う先輩を見てたら、そんな気力も失せてしまった。 私、この笑顔に弱いんだよね〜… 巨大なクマを抱えて苦笑いしてると、トントンっと肩をつつかれた。 振り返ると… 「……やる……」 海堂先輩が、真新しいバンダナを差し出してきた。 よーく見てみると、先輩が愛用してるのと同じ柄だ。 「つけるんですか？ 私が？」 「フシュゥゥ〜……（うなづく）」 「おそろいで？」 「フシュゥゥ〜……」 ……とりあえず明日のお弁当、コレに包んでこようっと。 「マムシ野郎、シケたもん渡してんじゃねーよ。」 海堂先輩を押しのけて出てきたのは桃ちゃん先輩。 「俺からはコレだ。欲しいって言ってたＭＩＳＩＡのアルバム！」 「わーありがとうございますー！ 今月おこづかいピンチで買えなかったんですよ〜。」 「…と言いたいとこだけど、にやるのはダビングしたＭＤのほうな！ 俺も金欠なのよ〜。」 「あはは…」 桃ちゃん先輩はいつもピンチみたいだからなぁ…。 「フン、どっちがシケてんだか…」 「んだよマムシ。趣味悪ぃバンダナよりはマシだろーよ。」 「なんだとテメェ…！」 「やんのか！？」 「こら、やめるんだ２人とも！ 今日はさんの誕生日をみんなで祝うんだろ？」 「「すんません…」」 一触即発状態の２人の間に割って入ったのは大石副部長。 「女の子へのプレゼントって、何あげたらいいか分からなくて… 気に入ってもらえるかな？」 もらった包みを開けてみると… 「…………………………」 ディスカウントストアで５４０円（税込）で売っていそうな、 ノート×１冊、メモ帳×２冊、鉛筆×５本、消しゴム×２個ｅｔｃの文具セット…。 小学生のプレゼント交換じゃあるまいし…と思ったけど、 副部長なりに一生懸命選んでくれたんだからと、ありがたくいただくことにした。 他のみんなも、それぞれにプレゼントを用意してくれていたみたいで… 「父ちゃんに教わってチラシ寿司作ってきたんだ。 みんなの分あるから、良かったら食べてくれないか。」 「うわーっ、タカさんすげェー！」 「俺ら、ケーキ買ってきましたー！」 「ナイス、堀尾・カツオ・カチロー！」 「フライドチキンもあるぞ！」 「気が利くじゃんマサやん！」 「ふふふふ、みんな飲み物を忘れているようだね。でもご安心を。 乾特製野菜汁スーパーマグナムバースデースペシャルを用意して…」 「「いらね――！！」」 こうして私達は、河村先輩のお寿司と、部員のみんなが用意してくれた ケーキやお菓子ｅｔｃ（乾先輩の特製野菜汁スーパー以下略含む）で 盛大なお祝いをした。 その盛り上がりの中… 「さん、僕からのプレゼントも受け取ってもらえるかな。」 そう言って不二先輩がくれた紙袋の中には、 何やら赤いレースのようなものが… …ってコレ下着！？ 「たまには大胆なのもいいんじゃないかなって思って。 こういう色のほうが、僕は好きだな。」 「……………」 下着に負けず劣らず真っ赤になっている私の顔を見ると、 先輩は満足そうに笑って去っていった。 …コレ、サイズもピッタリなんですけど。 なんでそんなことまで知ってるんだあの人は――――！！？ ＊ ＊ ＊ パーティーの後、私はひとまずロッカールームに、 もらったプレゼントをしまってきた。 両手に抱えきれないほどたくさんあって、 とても一日じゃ持って帰れそうにないから。 中には“？”なのもあったけど、その一つ一つに心がこもっていて…。 私って、幸せ者だな ―― テニス部のみんながお祝いしてくれて。 レギュラーのみんながプレゼントをくれて。 ……レギュラーの、みんな。 ……ひとり、足りない。 そう、本当はいちばん“おめでとう”を言ってほしかった人。 ―― リョーマ君。 越前リョーマ君。 青学に入学して、テニス部のマネージャーになった頃から、 ずうっと大好きだった人 ―― パーティーの時も、どこにもいなかった。 気が付いてた、だっていつでも探してるから。 でも気が付かないフリをしていた、悲しかったから。 リョーマ君のことだもん、私の誕生日なんて興味ないよね。 きっと、帰っちゃったんだよね…… 幸せでいっぱいだったはずの胸が、 きゅうっと締めつけられたみたいに苦しくなった。 私、なんてわがままなんだろう。 こんなにたくさんの人から幸せをもらったっていうのに。 あなた一人がいないだけで… その幸せが、急に色あせて見えてしまうんだ…。 …………… 「。」 不意に名前を呼ばれて振り返る。 「リョーマ君…！」 そこには、私のいちばん会いたかった人がいた。 「今までどこ行ってたのリョーマ君！？ 今日は私の…」 「誕生日でしょ。知ってる。」 「じゃあどうして…」 「何？ 一緒に祝ってほしかったわけ？」 「そ、それは…」 嬉しいと思ったのもつかの間、 あまりに淡々としたリョーマ君の態度に、タジタジになってしまう。 「プレゼント、」 「え？」 「もらったんでしょ、レギュラーの先輩達から。」 「う、うん…」 「で、俺からだけもらえなかったから怒ってるんだ？」 「べ、別に怒ってるわけじゃ…」 全部見透かされているようで、恥ずかしさがこみ上げてくる。 「は…何が欲しいの？」 「え…っ？」 「言ってよ。がいちばん欲しいモノあげるからさ。」 「私…私は…」 モノなんかいらない。 なんにもいらないよ。 リョーマ君さえいてくれれば… でもそんなこと、言えるわけがない。言葉が出ない。 「ねぇ、早く言ってよ。」 「…………」 「ああもう、じれったいな。」 ―― ガシャン。 「…っ！」 一瞬、何が起こったのか分からなかった。 気が付くと、フェンスに体を押しつけられていた。 強くつかまれた手首が痛い。 「リョーマ君…」 リョーマ君は何も言わないまま、だけど口の端がかすかに笑っていた。 「離して…痛い、よ…」 こんなの、いつものリョーマ君じゃない。 怖い……！ 「言わないんならいいよ、勝手にするから。」 「やぁ…！」 怖くて怖くて、目をぎゅっと閉じる。 「…………！」 ―― ちゅっ。 おでこに、柔らかい感触。 目を開けると、リョーマ君は相変わらずのクールな顔で私を見下ろしていた。 「これでいい？」 「…………」 「の…欲しがってたモノ。」 思考がストップしてる。 ただ分かるのは、リョーマ君が私のおでこにキスしたってこと…。 「ど…して…？」 「知ってたから。…好きなんでしょ、俺のこと。」 「な、なんでっ…！？」 「態度表れすぎ、顔に出すぎ、声うわずりすぎ……バレバレだね。」 リョーマ君はちょっぴり照れくさそうに笑っていて。 緊張がプツリと切れた私は… 「う…ふぇ…」 ぽろぽろと泣き出してしまった。 「…泣くことないのに。」 「だ…って、…っく、リョー、マ、君が…っ、イジワルっ、するっ、から…」 「別にいじめたつもりはないんだけど。」 「びっくり…したっ、ん…だもん…っ」 「はいはい、スミマセンでした。」 そう言うと、リョーマ君はキャップを脱いで私の頭に深々とかぶせた。 「帽子…？」 「顔ぐちゃぐちゃ、みっともない。」 「…だっ、てぇ〜…ふぇぇ…」 「早く泣き止んでくんない？」 「俺も…好きだから、さ…」 ＊ ＊ ＊ 今日は私の誕生日。 一年に一度の、特別な日。 何か嬉しいこと起こるかも、って思ってた。 そしてそれは、思ったとおりで… たくさんの人がお祝いしてくれた。 たくさんの人がプレゼントをくれた。 幸せな幸せな、誕生日。 だけど…… いちばんの幸せは…… リョーマ君、これからもずっと、あなたのそばにいられることなんです ―― happy birthday, Y Back |