第４話　戦友に捧ぐ鎮魂歌 北方調査のため、調査兵団本部を発って20日余り。 は、ウォール・ローゼ北部の突出区・ユトピア区にある 兵団支部を拠点として北方の壁外調査を続けていた。 拠点を定めたことで、サクラを介した本部との書簡のやり取りが 可能となり、日々の移動距離とその日に遭遇した巨人の数から 概ねの巨人の分布を割り出した調査報告を 定期的に本部のアーベル分隊長あてに送っていた。 予定していた調査が間もなく終わろうとしていた折、 アーベルから調査兵団の近況が届いた。 トロスト区で捕えた二体の巨人が何者かに殺害されたこと。 カラネス区を起点として第57回壁外調査が行われることが正式に決まり、 それに向けた陣形の全体訓練が始まったこと。 そして、自身の調査への参加は免除すること。 “ユトピア区には温泉が湧いていると聞いたことがある。 　次に長い休暇が取れたらカミさんと子ども達を 　連れて行こうと思うので、ついでにそのへんの調査も頼みたい。 　そんなわけだから、慌てずに帰ってこい。” 一見するとふざけているようだが、 それは生真面目な性格のに対する彼なりの気遣いである。 さらに末尾には、こう記されていた。 “特別作戦班から預かった手紙がある。 　壁外調査の前に渡してほしいと頼まれたものだ。” その後ろに重ねられた、もう一枚の手紙 ―― “離れていても、が頑張ってると思えば私も頑張れるよ。 　調査が終わったら、また美味しいものを食べながらおしゃべりしよう。 　北方調査の話も聞かせてほしいな。 　どうか無事に帰ってきてね。　ペトラ” “元気でやってるか、？ 　お前のことだから、クソ巨人どもをバタバタと倒してるんだろうな。 　自慢の同期、今回の成果にも期待しているぜ。 　まあ、まだまだ俺の域には達していないがな。　オルオ” そしてさらに、オルオの署名の傍らには、ペトラの字で “気持ち悪っ！” と書き殴られていた。 は苦笑いをしながらも、その手紙をぎゅっと胸に抱いた。 ＊　　　　　＊　　　　　＊ 二体の巨人の殺害により疑われることとなった、兵団内部に潜む敵の存在。 第57回壁外調査の真の目的は、エレンを囮に使い、 その正体を暴き捕獲することにあった。 出発から程無くして出現した、これまでの巨人とは明らかに異なる “女型の巨人”。 明確な意思を持ち、人間が操っていると見られるその巨人は、 執拗にエレンを連れ去ろうとする。 その圧倒的な戦闘力の前に、またしても甚大な損害を負った調査兵団。 巨大樹の森にて繰り広げられた死闘の末、エレンの救出には成功した一方で、 リヴァイがその最中に脚を負傷し、しばらくは戦線を外れることとなった。 「長らく本部を離れ申し訳ございません。 　・、只今戻りました。」 帰還したを待っていたのは、 壁外調査を終えたばかりの仲間達だった。 「班長、お疲れさまでした…」 レーナが真っ先に駆け寄り、の荷物を受け取る。 だが、その表情は暗い。 「ありがとうレーナ…無事で良かった。 　…特別作戦班のみんなはどこ？ 　私、オルオとペトラから手紙もらってて、ちゃんと謝らなきゃ、って…」 「あの…班長…それが…」 「え、何？　やっぱりまだ私のこと怒ってるの…？」 「……ッ……」 言葉を詰まらせるレーナだったが、意を決したように口を開く。 「班長…」 「ん？　どうしたの？」 「調査で…女型の巨人が…出てきて…ッ、 　すごく強くて…女型にたくさん殺されて… 　みんな…死んでしまって…ッ…」 「メガタって…何…？ 　ちょっと…ごめん…よく分かんない…」 どのように話したら良いのかレーナ自身も分かっておらず、 伝えたいことが伝わらない。 「もういい、レーナ。俺が話そう。」 部屋の奥に掛けていたアーベルだったが、 二人の元に歩み出てレーナを制すると、 戸惑うの前に腰を落として視線を合わせた。 「いいか、落ち着いて聞いてくれ…」 そしてアーベルの口から語られる。 女型の巨人による特別作戦班の壊滅、二人の戦友の壮絶な死 ―― 「嘘…嘘でしょ…信じない…」 青ざめた顔で、うわ言のように口走る。 「…嘘だ…だって何もない… 　亡骸だけでも…せめて…何か遺品でも… 　…ねえレーナ、何もないの…！？」 「……申し訳、ありません……」 「…う…あああッ…！」 は自身の髪飾りを外すと、それを握りしめて泣き崩れた。 ＊　　　　　＊　　　　　＊ 訓練兵団に入団して間もない頃。 生まれ育った開拓地の人々に疎まれ続け、自らの存在価値を 見失っていたは、前髪を長く伸ばして目元を隠していた。 兵法の講義。 隣に座っている訓練兵が教官に指名された。 横分けにしたショートボブの髪を髪飾りで留めた可愛らしい雰囲気の 女子だが、予習を忘れた様子で答えに詰まっている。 は自身のノートをそっと彼女のほうに寄せ、 解答の部分を指した。 「ありがとう！　助かったわ…」 ノートを読み上げて事無きを得た彼女だったが、 「………」 じっとこちらを見た後、おもむろに自身の髪飾りを外すと、 の前髪をかき上げて、その髪飾りでまとめて留めた。 「えっ…？」 「あなた…美人なんだから顔隠すなんてもったいないよ。それあげる。」 「あ、ありがと…」 突然のことに、呆気にとられる。 すると、もう一つ隣に座っていた癖毛の男子が、 前のめりになってその顔を覗き込んできた。 「おぉ、同期にこんな綺麗な子がいるなんて知らなかったっス。 　これからよろしくおなしゃっス！」 「あ、えと…よろしく…」 「ちょっとぉー、こんなとこでナンパ？　だっさ！」 「なに妬いてんスか…もしかして、俺に気があるんスか？」 「そんなわけないでしょバッカじゃないの？ 　芋臭い喋り方のくせにうぬぼれないでよバーカバーカ！」 「コラそこ、何を騒いどる！？ 　オルオ・ボザド、ペトラ・ラル、・か… 　三人とも立ってろ！！」 「「すみませんっ！！」」 ―― この時からだった。 この時から、は人間らしさを取り戻し始めた。 守りたい仲間ができた。 そして、誰かのために…人類のために、生きて、戦おうと思った。 ＊　　　　　＊　　　　　＊ その日の深夜。 「リヴァイ…兵士長っ…！」 は、リヴァイの執務室に飛び込んだ。 「…・か。」 奥にある執務机で事務仕事をしていたリヴァイが顔を上げる。 「長期にわたる調査、ご苦労だったな。」 「………」 ねぎらいの言葉をよそにリヴァイの前までカツカツと歩を進めると、 机を両手でバンと叩いた。 「なんだ…調査報告にしては随分と情熱的だな…？」 「今回の作戦…エレン・イェーガーを除く班員全員を犠牲にしたと聞いた。」 「全てはエレンを守るため…想定の範囲内だ。 　…何が言いたい？」 リヴァイは席を立ち、の前に歩み出る。 その威圧感に気圧されて一歩下がるが、負けじと鋭い視線を返した。 「…部下を…なんだと思っている…？」 「…ああそうか…お前は確か、オルオとペトラの…」 「同期…訓練兵の頃からずっと一緒だった… 　二人ともあなたのことを尊敬して、信じてた…それをあなたは…！」 激しい憤怒の表情で、声を振り絞る。 「冷静になれ。あいつらが作戦に不満でも漏らしていたか？ 　死にたくないと、友達のお前には打ち明けていたか？」 「…ッ…許さない…うああッ！」 負傷しているとはいえ、対人格闘技の実力差は歴然。 リヴァイは殴りかかってきたの拳を難なくかわすと、 脇に回り込み、その腹に膝蹴りを入れた。 「うぐッ…！」 倒れ込んだは机の側面に体を打ち、 その衝撃で書類やペンが床に散乱する。 「…ゴホッ…ケホッ、ケホッ… 　…ッこの…！」 「無駄だ、もうやめとけ。」 「ああッ！」 しばし咳込んだ後、立ち上がり再びリヴァイに向かっていくものの、 あっけなく組み伏せられてしまう。 「とんだ跳ねっ返りだな…これ以上俺の部屋を散らかしたら殺すぞ。」 「放せッ…！」 「オイ暴れるな、ほこりが立つだろうが…少し大人しくしてろ。」 リヴァイは自身の首に巻いていたスカーフを外し、 押さえつけていたを後ろ手に縛り上げて再び床に転がした。 「いいザマだな…これで少しは話ができるようになったか…？」 「…くっ…解…けッ…」 「なあ…お前、同期の仇討ちを気取ってんのかもしれねえが… 　元々俺が気に食わなかったんじゃねえか…？」 「何…を…」 の顔色が変わる。 「…はっ、そうだよなあ。 　訓練兵団では首席だった優等生が、今では仲間の死が怖くて 　集団では戦えねえ腰抜けだ。 　俺の班にも選んでもらえず同期に先を越され… 　そりゃあ頭にも来るよなあ？」 「そん…な…こと…」 「認めろよ…お前はそういう不完全で、脆い人間なんだよ！」 ―― ダンッ！ 「ッ…！」 胸ぐらを掴んで壁に叩きつけられ、そのままズルズルと座り込む。 だがリヴァイはそれすらも許さず、前髪を掴んで上を向かせ、 その顔を覗き込んだ。 「どうした…俺が憎いんだろう？　許さないんじゃなかったのか？」 「うぅ…」 歯を食いしばり、苦悶の表情を浮かべる。 そこに、物音を聞きつけて、兵士が数名やって来た。 「兵長！？　何をしているんですか！？」 「あ？　躾だよ。こいつがあまりに甘ったれたことを抜かすから、 　少しばかり痛みを与える必要があると思ってな。」 「ふざ…けるな…偉そうに… 　部下を見捨てて帰ってきたくせに…あなたなんかに何が分か…あぐッ！」 リヴァイはの口内に指を突っ込み、舌を引っぱり出した。 「それが上官に対する口のきき方か？ 　いい加減黙らねえと、この舌削ぎ落とすぞ？」 「か…はッ…」 悔しさと屈辱で、涙が溢れてくる。 「兵長…やりすぎです…！」 「フン…アーベルが甘やかしていたとは言え、 　こいつの行動は目に余るものがあった。 　一度、鼻っ柱をへし折ってやる必要があると思っていたところだ。 　いざとなると何もできねえくせに、いきがってんじゃねえよ。」 解放され床に投げ捨てられるが、手を縛られたままのため、 唾液で汚れた顎を拭うことも髪の乱れを直すこともできない。 「…っ、はあっ…」 「お前が憎むべきは俺ではなく巨人だろう。怒りの矛先をすげ替えるな。」 ハンカチで指先を拭いながら、横たわるの前に腰を落とす。 「悔しかったら、もっと強くなることだ。 　このまま腐っていくか、腹くくって戦うか… 　まあ、せいぜい悔いが残らないほうを自分で選べ。」 「ちくしょう…ちくしょう…ッ！」 は、涙を浮かべながらも気丈にリヴァイを睨み上げた。 「俺は謝罪の言葉を聞きたいんだが…まだ反省が足りねえようだな。 　…懲罰房で頭を冷やせ。」 ＊　　　　　＊　　　　　＊ 兵団本部の地下室。 鉄格子の奥から、かすかな歌声が聴こえてくる。 葬送曲 ―― 死者に捧げる鎮魂の歌。 ところどころ掠れた、それでいて高く澄んだ声。 懲罰房の床に座り込んだは力なく石壁に体を預け、 虚ろな表情で歌い続けていた。 用意された食事には、全く手が付けられていない。 寝床も乱れておらず、休んだ形跡もない。 ただ、歌うだけ ―― 「……」 様子を見に来たリヴァイだったが、 目を閉じてしばしその歌声に聴き入ったあと引き返していった。 ＊　　　　　＊　　　　　＊ 「すまなかったな、リヴァイ…」 騒ぎを知り、リヴァイの元を訪れたアーベルが頭を下げる。 「冷静なようでいて血の気が多いというか… 　仲の良かった同期のことで、熱くなっちまっただけなんだと思うが… 　…いずれにしろ、俺の監督不行き届きだ。」 「だから言ったろう、甘やかすなと。」 「面目ない…それで、は…？」 「……」 リヴァイの脳裏を、鉄格子越しに見た生気のない表情がよぎる。 「…あいつはしばらく俺が預かりたい。」 「頼む、これ以上手荒なことは…！」 「バカか、何も取って食やぁしねえよ。 　俺にも責任ってもんがある…異存はねえな？」 「…ああ…」 ＊　　　　　＊　　　　　＊ が懲罰房に入れられて丸一日。 もう歌声は聴こえない。 ギィ… 再び下りてきたリヴァイの手によって、重い鉄格子が開かれた。 「・。出ろ。」 「………」 名を呼ばれ、膝にうずめた顔を上げる。 「ホラ…立てるか？」 差し出された手を取り、よろよろと立ち上がる。 抵抗する気力もない。 疲労と喪失感で、思考は完全に停止していた。 「お前の処遇は俺に一任されている。ついて来い。」 時折ふらつくその体を支えられながらリヴァイの執務室に通され、 ソファの端に腰掛けたの前にティーカップが置かれる。 「飲め。」 「……」 「ただの紅茶だ、別に変なもんは入れちゃいねえ。 　…体、冷えてるんだろうが…」 カップから立ち昇る湯気をぼんやりと眺めていただったが、 促されるままおずおずと両手でカップを持ち、口を付けた。 「美味いか？」 目を伏せたままコクリと頷く。 「懲罰房にブチ込まれたのが応えたか… 　随分としおらしくなったもんだな。」 「……」 「…さて、本題だ。自分がしたことは理解しているな？」 「…はい…」 「俺の行動は間違っていたか？」 「いえ、必要なことだったと…」 「ほう、聞き分けがいいな。 　それならば…罪に対しては、相応の罰を与えなければならない… 　分かるな？」 「…どのような罰も、受ける覚悟です…」 両手をぎゅっと膝の上で握りしめる。 毅然としているようでいても、怯えの色を隠せない。 リヴァイがその正面にどかっと座ると、はビクッと肩を震わせた。 「正直俺も、どうしたものかと思っている。 　いろんな奴を見てきたが…俺を殴ろうとした部下は、お前が初めてだ。」 「…！」 事の重大さを改めて認識し、息を飲む。 シャツと背中の間を、汗が流れていく。 「だからまあ…そうだな… 　…お前には、罰として俺の話を聞いてもらう。」 「えっ…！？」 は、この時初めてリヴァイの顔を見た。 「少々辛いかもしれねえが、黙って聞け。 　最後まで聞けたら赦してやる…」 そして語り始める。 オルオとペトラ、それぞれとの出会いから特別作戦班での出来事。 が知らなかった二人の活躍と、第57回壁外調査での最期… その間、は涙を堪えながら、 しかしリヴァイの目をまっすぐに見据えていた。 「…以上だ。質問はあるか？」 「兵士長…教えてください… 　…二人は、一緒に逝けたのでしょうか…？」 「ああ…いちばん近くにいた。 　これは俺の推測だが…先にペトラ、直後にオルオだろうな。」 「…良かっ…た… 　…あの子、本当に優しいから… 　同期や分隊のメンバーが死ぬたび泣いてたから…」 「……」 「ペトラが泣くたび、私とオルオでなだめて… 　いつも大変だったんだから…」 「……」 「オルオは…いつもペトラのことばっかり見てて… 　…だから…最期に見送れたのが…ペトラで…良かった…」 泣き笑いのような、どこか苦しげな表情。 リヴァイはため息をついて立ち上がり、の前に立った。 「…お前…何を我慢している…？ 　何か引っかかっていることが… 　他にも言いたいことがあるんじゃねえのか…？」 「………」 「なんてツラしてんだ…クソでも漏らしたのか？　違うだろう？ 　言いたいことがあるなら言っとけ。」 「…ッ…私、北方調査に出る前… 　オルオとペトラが特別作戦班に指名された時… 　私も推薦してくれるって…一緒に特別作戦班で戦おうって、 　誘ってもらったんです… 　でも私はそれを断って、言い争いになって、 　二人を失望させてしまった… 　それが…最後になってしまって…ッ！」 私服のスカートを握りしめる手が震えている。 「…確か調査に発つ前、あいつらはお前に手紙を書いていたな。 　そこには何が書いてあった？」 「……！」 “離れていても、が頑張ってると思えば私も頑張れるよ。” “自慢の同期、今回の成果にも期待しているぜ。” 「それがあいつらの最後の言葉… 　それが…真実なんじゃねえのか…？」 「〜〜〜ッ！！」 リヴァイの言葉に救いを感じ、堰を切ったように涙が溢れ出す。 声を殺しながら端正な顔を歪めて泣きじゃくる姿に心が痛み、 隣に腰掛けてその肩に手を伸ばすと、は驚いたように 身をすくめた。 「駄目ですッ…兵士長…！ 　ペトラに…ッ、じゃなくて……私、こんなだから… 　…兵士長の…シャツ、汚れちゃいますから…ッ！」 大きな目から涙をぼろぼろと零しながらも精一杯顔を背け、 何か理由を付けて懸命にリヴァイの体を押し退けようとしている。 「…ったく面倒臭えな、バカ。」 「っあ…！？」 弱々しく抵抗していたその手を捕えて強く引き寄せ、 倒れ込んできた体をソファの上で受け止める。 力では敵わず、はリヴァイに身を委ねる他なかった。 「なあ、お前…いつも俺のことを睨んでたよな？ 　それがなんだ、このみっともねえツラはよ…」 「…やだぁ…見ないで…」 うつむくその顎に手をかけて物珍しそうに覗き込むと、 は逃げるようにその胸に顔をうずめて泣き続けた。 「ざまあねえな…何かと俺に突っかかってきやがったくせに、 　グズグズじゃねえか。」 「…申し訳…ありませ…ッ…」 止めどない涙がシャツを濡らしていく。 やがて、がぽつりぽつりと話し始める。 「兵士長…、私…ッ、班長になってすぐの調査で… 　班員を全員…ッ、死なせてしまったんです…」 「ああ、知っている…それで単独調査を志願したことも…」 「…それなのにッ、同じだったのに…ッ… 　…私…兵士長の気持ちも…考えないで…あんなこと…ッ！ 　最低…私…最低です…ッ…」 「分かった、分かったから…もういい… 　もう、そんなに自分を責めるんじゃねえ…」 それは、彼自身が欲しかった言葉だったのかもしれない。 これまで一時的に集められた班の統括を任されることはあったが、 直属の部下を持つのは、今回が初めてだった。 彼を責めていたのは、他の誰でもなく彼自身。 ああそうか、こいつはずっと前から、今の俺と同じだったのか ―― 「…ごめんなさい…兵…長…ごめんなさい…」 「いいから…もう寝ろ…」 リヴァイは震える細い肩を強く抱き、その背中を撫で続けた。 彼女が泣き疲れて眠るまで ―― …………… やがて空が白み始める頃。 リヴァイの腕の中で、は安心しきったように寝息をたてていた。 完全に体を預けられてしまっているとはいえ、 彼の力であれば抱き上げて仮眠室まで運ぶこともできたのだが、 敢えてそれをせずにさらに深く座り直した。 「…ったく重てえな…足悪くしたら責任取れよオイ…」 悪態をつきながらも、その表情は穏やかで。 リヴァイは近くの椅子に手を伸ばし、 背もたれに掛けてあった毛布を掴み取ると、 壊れものを扱うかのように丁寧にの体を包んだ。 そして、彼女の頬に残る涙の跡をそっと指で拭うと、 観念したように自身も目を閉じ、浅い眠りについた。 兵士として、上官として、男として ―― 今、目の前で迷い足掻く彼女の想いを受け止めることが、 死した仲間達への贖罪のようにも思えた。 Back